【龍以】このカルデアに坂本龍馬はいない

 いつもであったら魔神柱討伐ですら他カルデアと連携しないマスターが、珍しくチームを組んでグレイルウォーに参加していた。グレイルウォーとはマスターが3騎のサーヴァントを連れて他のカルデアと3対3で行う「聖杯戦争」で、本来の聖杯戦争よりスポーツ性を強調したカルデア同士の対戦である。ここのマスターは、同士で戦うことに抵抗があるようで、できることならやりたくない、と言っていた。そのマスターがグレイルウォーに参加しているということは、よほどのことがあったのか。スタッフに尋ねてみれば、思いのほかしょうもない理由だった。
 新しく来たサーヴァントの修行とかなんとかで、真紅の槍を持つ女がマスターをグレイルウォーに連れ回しているらしい。そういえば赤い弓兵やら壬生狼やらが嬉々としてマスターと新人の相手をしていたなと岡田以蔵は思い出す。戻ってきたマスターから、グレイルウォーってのは以蔵さんの力が重要なんだなぁって実感したんだよねぇ、と言われ、頼りにされていることに気をよくして、ともにレイシフトしてみれば、なるほど「以蔵さんの力」とはサポートスキルのことだった。自分のサポートスキルは限定的に対象を人斬りにさせることができる。対戦相手が人型ばかりであれば、以蔵のスキルは通用するだろう。マスターはレイシフト前に、セタンタの後には以蔵さんも戦ってもらうから、盤面も見ておいてね、と言っていた。
 観察の時間になるなら、と、新人サーヴァントの少年剣士はどんな剣術を使うのかと修行を後ろから見ていたが、剣はどうやら宝具にだけ使うもののようで、通常の戦闘では殆ど棒術だった。龍馬は薙刀の免許皆伝を持っていることを思い出した以蔵は、龍馬が薙刀を扱えるならば自分も棒術くらいは使えるかもしれないと考え、若い戦士の棒術を物にしようと彼が撤退するまで戦闘を眺めていた次第である。
 マスターは対戦が終わったあともしばらく他のマスターと談合していたようで、他のマスターから貰ったらしい小箱をエミヤに見せていた。それからマスターは以蔵の姿を見つけると、ちょっとこっち来て、と手招きした。
「これ、今日チームを組んだマスターさんから貰ったんだよ。うちのカルデアの以蔵さん強いねって褒めてたよ」
 そう言って見せてくれた小箱の中には、日本酒の瓶が入っていた。しかも。
「こりゃあ、土佐の酒やか! えいもん貰うたのう!」
「うん、高知県の日本酒だし、ここって江戸時代からある醸造所なんでしょ? 以蔵さん懐かしがってくれるかもってくれたんだ」
「マスターはお礼をしなければならないな。何を渡すかは考えてはいるかね?」
「う〜ん……イシュタルに霊衣あげてたし、さっきもイシュタルのことを自慢していたから、イシュタルが好きそうなものがいいかなって思うんだけど……」
「ふむ、それならば私もアイディアを出そう。そうだ、アサシン」
「どういた」
「今夜、セタンタの歓迎会を行うのだが、必要であれば、食後にこの酒に合うつまみを作ろうか」
「ほぅ! おまんの作るツマミは美味いき、楽しみぜよ」
 それからエミヤとマスターは倉庫のほうへ向かって行った。
「さァてと……」
 歓迎会までは時間がある。それまで如何にして時間を潰そうかと考える。生前であれば刀の手入れでもしようかとなるだろうが、サーヴァントとなった今では武器の手入れは必要ない。今から酒を拝借するのは……せっかくの歓迎会酒の席で醜態を晒しかねない。多少の金はあるが、遊ぶには時間が短すぎる。それならば先程覚えた棒術を使ってみようかとシミュレータールームへと足を運ぶことにした。